人材開発支援助成金の不正受給20億円|リスキリング研修の落とし穴

人材開発支援助成金でAIリスキリング研修が75%助成される仕組みと、191事業所20億円の不正受給事件を調べた記事のサムネイル

どうも〜さとあつです😄

最近やたらと目にするんですよ。

AIリスキリング研修、助成金が使えます。実質負担はこれだけです。今なら。

で、正直に言います。

俺、意味が分かってないです。

リスキリングって何。研修の中身は何。誰が金を出してるの。そのへんがずっとふわっとしたまま、言葉だけ通り過ぎていってた。

だから調べました。制度の条文まで見にいったら、想像してたのと違う景色が出てきたので、順番に書きます。

リスキリングとは、そもそも何なのか

経済産業省の定義がこれです。

新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得すること

要するに、学び直しです。

ただ学び直しなら昔からある。リカレント教育っていう言葉がそれです。

リスキリングとリカレント教育の違いは何かというと、リカレントは会社をいったん離れて大学とかで学ぶやつ。リスキリングは働きながらやるやつで、しかも会社が従業員にやらせる前提の言葉なんです。

言い出したのは欧米で、2016年ごろから。世界経済フォーラム、いわゆるダボス会議がリスキリング革命と宣言して、そこから一気に広まった。

つまり最初から企業向けのキーワードだったってことです。個人が自分のために勉強する話じゃなくて、会社が社員をどうにかする話。

ここが分かって、少しスッキリしました。あの営業がぜんぶ会社宛に来る理由がこれです。

AIリスキリング研修の費用相場を調べた

で、AI研修の値段です。これが幅がすごい。

AI研修の形式費用の目安
eラーニング・動画型1人あたり年5〜10万円前後
講師が来る半日〜1日型1回30〜150万円
自社向けカスタマイズ・伴走型100〜300万円

生成AI研修だけで見ると、1人7万円から300万円超まであるそうです。同じ名前の商品で、値段が40倍以上ひらく。

中身のほうも見てみました。だいたいこんな感じです。

AIの基礎を座学でやって、そのあとプロンプトの書き方を手を動かして練習する。自社の業務に当てはめるワークをやって終わり。半日から数日。

・・・

正直、これ自体は悪いもんじゃないと思いました。入口としては普通です。

問題は値段の根拠が見えないことでした。40倍の差がどこから来てるのか、外からだと分からない。

人材開発支援助成金のリスキリング支援コースが、これ

ここからが本題です。

研修の営業が持ってくる助成金は、たいてい厚生労働省の人材開発支援助成金というやつです。その中の事業展開等リスキリング支援コース。

条件が、けっこうすごいです。

75%
研修費の経費助成(中小企業)
1,000
研修中の賃金助成(1人1時間)
1億円
年間の上限額

研修費の4分の3が返ってきて、そのうえ研修を受けてる間の給料まで1時間1,000円ぶん補助される。

年間の上限は1億円です。

この数字を見て、やっと腑に落ちました。

100万円の研修を売るときに、実質25万円ですと言えるわけです。しかも社員が席を外してる間の人件費まで戻る。そりゃ営業も強気になる。

ちなみに個人向けのやつもあります。経済産業省のリスキリングを通じたキャリアアップ支援事業。受講料の最大70%、上限56万円。ただしこっちは転職を目指してる人が対象なので、今の会社で使いたい人には合わないです。

助成金の申請の流れ。順番を間違えると出ない

調べてて一番びっくりしたのがここでした。

この助成金、研修を受けたあとに申請するものじゃないんです。

  1. 研修の内容と対象者を決める
  2. 研修開始の1か月前までに、職業訓練実施計画届を労働局へ提出する
  3. 計画どおりに研修を実施して、出席簿や賃金台帳などの記録を残す
  4. 研修終了後に支給申請する

2番です。研修が始まる1か月前

ここを飛ばすと、どんなに中身の良い研修を受けても1円も出ません。今週から始めましょう、助成金も使えますよ。そういう営業があったとしたら、その時点で計算が合わないってことになります。

人材開発支援助成金を使った企業向けAIリスキリング研修の風景。受講者がノートパソコンで生成AIを操作している
↑ 制度としては、けっこう手厚い。

20億円の不正受給。手口はこうだった

去年の12月19日付で、厚生労働省がある不正受給を認定してます。

30の労働局にまたがって、191の事業所。金額にして約20億円。

191事業所
不正受給を認定された数
20億円
不正受給の総額
30都府県
またがった範囲

手口を読んで、ちょっと固まりました。

エッグフォワードという東京の会社が2023年から2024年ごろにかけて、191の事業所に研修を売る。事業所は研修費を払う。

そのあとです。

研修会社が、受け取ったのと同じ額を営業協力費という名目で事業所に送り返してる。

会社研修費を払う
研修会社同額を営業協力費として送り返す
会社実質の負担はゼロ
払ったことにして助成金を受給
研修費を負担していないのに、負担したことにして国に請求する。ここが不正の中身です。

つまり会社は1円も出してないのに、出したことにして国に助成金を請求してたわけです。

使われたのは定額制のサブスク型研修だったそうです。表向きは500万円を払ったように見えて、実際は300万円が別ルートで戻ってきていて、本当の負担は200万円。それでも500万円ぶんで申請する。そういう作りでした。

これ、研修会社だけの話じゃないんですよね。

助成金を申請したのは会社のほうです。だから返すのも会社。全額返した事業所が149で、返還額が約15億円。まだ返せてないのが42事業所で約5億円。そのうち31事業所は分割で返してる途中です。

そして返せてない側は、事業所名も代表者名も公表されます。

知らなかった、は通らないらしい

この件で俺が一番こわいと思ったのは、手口そのものじゃないです。

191社もの会社が乗ったという事実のほうでした。

30都府県ですよ。全国です。1社が暴走したんじゃなくて、営業をかけられた先が次々と乗ってる。

たぶんですけど、悪いことをしてる自覚がなかった会社もあると思うんですよ。

研修会社がぜんぶ手続きをやってくれて、うちは実質タダで社員教育ができますよと言われて、はんこを押しただけ。そういう温度だったんじゃないかな、と。

でも、そこが通らないんです。

代理人に任せていた。自分は知らなかった。この主張は責任逃れとして認められない、とはっきり書かれてます。申請したのは会社の名前です。返すのも会社です。名前が出るのも会社です。

実質無料でできますって言われたら、なんでタダになるのかをその場で説明できるまで聞く。それだけで防げた話だと思う。

2026年の制度改正で、認定支援機関の確認が必須に

当然というか、国も動いてます。

厚生労働省は不正受給防止のマニュアルを整備して、労働局の審査を厳格にする方針を出しました。研修会社から出てきた資料も申請時に出させて、不適切な営業がなかったか確認していくと。

人材開発支援助成金そのものも、今年の3月と4月に変わってます。

2026年の主な改正中身
対象の拡大(3月2日〜)3年以内の人事配置計画にもとづく訓練も対象になった
認定支援機関の確認が必須に中小企業がこの新しい類型を使うには、事前に認定経営革新等支援機関のチェックが要る
設備投資加算の新設(4月8日〜)研修後に機器を導入して賃上げすると、設備費の50%も助成

間に第三者を挟むようになった、というのが今年の変化です。研修会社と会社の2者だけで完結しないようにした。

裏を返すと、そこまでしないと止まらなかったってことでもあります。

AI研修は意味がないのか。3か月後を調べた

ここが一番知りたかったところです。

探したら、こんな例が出てきました。

ある中堅の製造業が、生成AI研修を3回やってます。累計で数百万円。

3か月後に調べたら、日常的にAIを業務で使ってる社員は全体の1割以下でした。

研修直後は盛り上がる。
3か月後には一部の人しか使ってない。
現場は、結局なにに使えばいいのか分かっていない。

原因としてよく挙がってるのが、研修の設計が操作説明で止まってること。

あとは、上司が使えと言わない。うまくいった話が共有されない。AIを使っても評価に関係ない。このへんです。

これ、研修が悪いというより、受ける側に使う理由が無いまま座らされてるって話ですよね。

使う理由が先で、研修は後だと思う

前に、中小企業のAI導入率が20.4%という記事を書きました。使わない一番の理由は、人材でも金でもなくて、現状で困ってないからでした。

困ってない人を会議室に集めて、半日でプロンプトの書き方を教える。

それで3か月後に1割しか使ってなかったとして、まあそうなるよな、と思うんです。

順番が逆なんじゃないかな。

俺の場合は、面倒くさい作業が先にあって、それを渡す相手としてAIが来た。議事録の要約とか、メールの文面とか。毎朝の歩数報告みたいな、仕事ですらないやつもあった。使う理由のほうが先にあったんですよ。

研修が要らないとは思ってないです。独学だと何年もかかることを、教わったら3日で越えられることは普通にある。俺だって1年かけて遠回りしてます。

ただ、助成金が75%出るから受けるという順番だと、たぶん何も残らない。

金の話が先に来た時点で、それはもう教育じゃなくて、金の話なんだと思います。

AI研修の3か月後。配られたテキストは棚に置かれたままで、デスクでは以前と同じ手作業の書類仕事が続いている
↑ 3か月後に、こうなってないかどうか。

ちなみに俺も、教える側をやります

ここまで研修の話をさんざん書いておいて何ですけど。

俺、8月にAIの講座をやるんですよ。

だからこの記事、完全に自分に刺さってます。書きながら何回か手が止まりました。

助成金の話は一切してないし、これからもするつもりはないです。ただ、受けたけど3か月後に誰も使ってない、という結末になる可能性は俺の側にもある。そこは他人事じゃないなと思いながら調べてました。

教わって身につくのか、自分で必要になって初めて身につくのか。

正直、まだ答えが出てないです。両方あると思ってます。

調べてみて、結局こう思った

AIリスキリング研修そのものは、あやしいものじゃなかったです。人材開発支援助成金という制度もちゃんとある。研修の中身も普通です。

ただ、75%という数字が真ん中に置かれた瞬間に、話がぜんぶそっちに引っぱられる。売るほうも、買うほうも。

20億円の件は、その引力が行くところまで行った結果なんだと思います。

もし今、実質負担はこれだけですという営業を受けてる会社があるなら、ふたつだけ聞いてみてほしいです。

それ、なんで安くなるんですか。

計画届はいつ出すんですか。

ちゃんと説明できる会社なら大丈夫だと思います。

ではまた!!

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